水虫のOTC薬

そろそろまた水虫の季節がやってきますが、この時期になると写真のような水虫のOTC薬によるかぶれを時々診るようになります。 OTC薬とは、医師の処方箋が無くても薬局で購入できる市販薬のことです(OTCはオーバー・ザ・カウンターの略)。OTC薬は安全性が重視されていますので、その分効果は弱いものが多いのですが、最近は私たち医師が処方する薬と同じ成分が含まれているものもあります。水虫のOTC薬の多くも、水虫の原因である白癬菌に強い抗菌作用を示す薬物が含まれていますので効果は十分あるのですが、時々ひどいかぶれを起こすことがあります。一方、医師が処方する水虫の薬でかぶれを起こすことはあまりありません。これはどうしてでしょうか? 実は、水虫のOTC薬にはメントールなどのかゆみを抑える成分(鎮痒剤)や殺菌剤、消毒薬などが含まれており、これらの成分がアレルギー性のかぶれを引き起こすことがあるのです。鎮痒剤が含まれていれば、塗った時にスッとして一時的に痒みが和らぐかもしれませんが、それで水虫が直ちに治るわけではありません。それよりも薬を根気よく塗って白癬菌の増殖を抑えることが大切で、そうすればいずれ痒みもとれます。なお、水虫は痒いというイメージがありますが、実際には水虫の過半数には痒みはありません。また、白癬菌は殺菌剤や消毒薬では死にませんのでこれも無駄なものです。OTC薬のメーカーは鎮痒剤や殺菌剤を入れることで付加価値をつけて販売を促進したいのでしょうが、むしろこれらがかぶれなどのトラブルの元になる可能性がある訳です。 OTC薬は病院に行かなくても簡単に手に入るので、水虫の治療くらいはこれで十分と思われるかもしれません。しかし、水虫は症状が様々で、私たち皮膚科医にとっても完治させることが難しい厄介な病気なのです。

フットケアのすすめ

顔は鏡で毎日見て特に女性はお化粧に余念がないと思いますが、足を毎日見て手入れする人はほとんどいないのではないでしょうか?作家の五木寛之氏は大の風呂嫌いで、あの見事な白髪も何週間も洗わないそうです。しかし、そんな彼が毎日欠かさず行っている事は、足の趾の一本一本を丁寧に洗うことだそうです。これは糖尿病の患者さんにとってはとても大切なことです。 糖尿病の患者さんは細い血管の血液循環が悪いために足の壊疽が起こりやすく、これにより足の切断を余儀なくされることもあります。壊疽は水虫やウオノメ、タコなど足の小さな傷から黴菌が入ることから始まりますが、糖尿病の患者さんは知覚神経が鈍くなっているので、足に傷があっても痛みがなく、異常に気付くのが遅れるのです。したがって、最近、多くの医療機関では糖尿病のフットケアとして以下のような指導をしています。 1)毎日1回は足をよく観察して 小さな傷や変色を見落とさないようにする。 2)足の清潔を保つため、1日1回はぬるま湯で石鹸を使って丁寧に足を洗う。 3)できるだけ素足では歩かないようにする。 4)足の爪を切るときは深爪をしないようにする。 5)足の水虫、ウオノメ、タコなどは早めにきちんと治療しておく。 歌手の元ちとせさん、一青拗さん、鬼束ちひろさんの3人には、裸足で唄うことを好むという共通点があります。彼女たちの縄文的なエネルギーに溢れた歌声は、素足に大地の力を感じることから生みだされるのではないでしょうか。健やかな足は元気の源です。糖尿病のない人も毎日の足の手入れを怠らず、元気に暮らしたいものです。

爪のメラノーマ

足の裏に次いで悪性黒色腫(メラノーマ)ができやすいのは爪です。特に手の親指、人差し指と足の親指が好発部位です。爪のメラノーマは殆どの場合、爪甲を縦断する黒い線として始まり、徐々にその幅が広くなっていきます(左の写真)。この時点で手術を受ければ100%治癒しますが、これを放置して爪の下に腫瘍ができてくると転移する恐れがあります(中央の写真)。 一方、爪の黒い線は子供さんには時々みられるものです(右の写真)。これは爪の根元にできるほくろによるもので、この場合は放置しても差し支えなく、成人に近づくと自然に消える場合もあります。 爪の黒い線がメラノーマのはじまりか、良性のほくろによるものかの判断は難しい場合がありますが、大人の人で、中年以降に爪に黒い線が出てきた人は必ず皮膚科を受診して下さい。 爪のメラノーマ 進行した爪のメラノーマ 小児の良性色素線条