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昔は常識であったことが180度変わるということが世の中ではままあります。これは医学の世界も例外ではありません。例えば、現在、スポーツ中に適度な水分補給を行うことは常識ですが、私たちが中高生のころは運動中に水を飲むと「バテる」とされ、部活の練習中にもできるだけ水を飲むなと言われたものです。今では考えられないことですが、ちょうど真夏の今頃、炎天下での練習の休憩時間、水を飲みたいのを我慢して、塩をなめながら熱いお茶を啜っていたことを思い出します。

傷の消毒についても同じことがあります。子供のころ、遊んでひざを擦り剥くと「赤チン」をつけて傷に息を吹きかけたものでした。つまり、傷は消毒してできるだけ乾かして治すということが常識でした。私が医師になりたてのころもこの常識は生きていました。皮膚の手術後は入浴を禁止して、毎日傷を消毒してガーゼを変えていました。また、床ずれの潰瘍にドライヤーで熱風を吹きかけて乾燥させていたこともあります。

しかし現在では、傷の消毒はできるだけ行わず、入浴はむしろ積極的にしてもらい、創傷面は乾かさずに湿潤した環境に保つというのが、傷の治りを早くするための常識なのです。私たちの診療所でも皮膚の手術を行った患者さんは翌日から入浴してもらい、原則として再診は翌日と1週間後の抜糸時のみとしています。また、擦り傷などはドレッシング材を貼るだけで、毎日消毒に通院してもらうことはしていません。