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マダニは山間部の森林に生息し、野生動物から吸血して成長します。近年はイノシシやシカなど野生動物が増加して人里にも出没しているのでマダニの生息域も拡大しており、山の中だけではなく、人家の庭や公園などでも人間がマダニに刺されることがあります。当院でも春から夏にかけて毎年5~10人のマダニ刺症の患者さんが受診されます。

マダニは衣服の隙間などから入り込み体表面を移動して、下腹部や腋など比較的柔らかい部位に口器を刺入して数日間にわたって吸血します。刺入された口器の周囲にはセメント様物質が分泌されて虫体は皮膚に強く吸着します。虫体を無理に除去すると口器が皮膚に残り、炎症反応や痛みが持続しますので、体に着いたマダニを発見したら直ぐに受診してください。病院では吸着状態に応じていくつかの方法で口器が残らないようにマダニを除去します。

マダニは色々な黴菌を有しており、吸血中にこれらが人体に入るとまれに重篤な感染症を引き起こすことがあります。マダニの種類と分布は地域により異なり、近畿地方では主にタカザゴキララマダニとフタトゲチマダニの2種類で、これらにより日本紅斑熱と重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という2つの感染症が生ずる可能性があります。日本紅斑熱はリッケチア・ヤポニカによる感染症で高熱と全身の発疹を特徴とします。SFTSはブニアウイルスが病原体で高熱とともに腹痛、下痢、嘔吐などの胃腸症状が出現し、著明な血小板減少、白血球減少と肝機能障害が起こり致死率の高い重篤な感染症です。これらの病気はマダニ吸着後数日から2週間の間に発症しますので、この期間は上記の症状の出現に十分な注意が必要です。

マダニ刺症は予防が大切です。野外活動に際しては極力草むらや繁みに入らないこと、長袖、長ズボンの着用で肌の露出を極力避けること、靴やズボンの裾に虫よけスプレーを念入りに噴霧することなどの予防対策を講じてください。