フットケアのすすめ

顔は鏡で毎日見て特に女性はお化粧に余念がないと思いますが、足を毎日見て手入れする人はほとんどいないのではないでしょうか?作家の五木寛之氏は大の風呂嫌いで、あの見事な白髪も何週間も洗わないそうです。しかし、そんな彼が毎日欠かさず行っている事は、足の趾の一本一本を丁寧に洗うことだそうです。これは糖尿病の患者さんにとってはとても大切なことです。 糖尿病の患者さんは細い血管の血液循環が悪いために足の壊疽が起こりやすく、これにより足の切断を余儀なくされることもあります。壊疽は水虫やウオノメ、タコなど足の小さな傷から黴菌が入ることから始まりますが、糖尿病の患者さんは知覚神経が鈍くなっているので、足に傷があっても痛みがなく、異常に気付くのが遅れるのです。したがって、最近、多くの医療機関では糖尿病のフットケアとして以下のような指導をしています。 1)毎日1回は足をよく観察して 小さな傷や変色を見落とさないようにする。 2)足の清潔を保つため、1日1回はぬるま湯で石鹸を使って丁寧に足を洗う。 3)できるだけ素足では歩かないようにする。 4)足の爪を切るときは深爪をしないようにする。 5)足の水虫、ウオノメ、タコなどは早めにきちんと治療しておく。 歌手の元ちとせさん、一青拗さん、鬼束ちひろさんの3人には、裸足で唄うことを好むという共通点があります。彼女たちの縄文的なエネルギーに溢れた歌声は、素足に大地の力を感じることから生みだされるのではないでしょうか。健やかな足は元気の源です。糖尿病のない人も毎日の足の手入れを怠らず、元気に暮らしたいものです。

爪のメラノーマ

足の裏に次いで悪性黒色腫(メラノーマ)ができやすいのは爪です。特に手の親指、人差し指と足の親指が好発部位です。爪のメラノーマは殆どの場合、爪甲を縦断する黒い線として始まり、徐々にその幅が広くなっていきます(左の写真)。この時点で手術を受ければ100%治癒しますが、これを放置して爪の下に腫瘍ができてくると転移する恐れがあります(中央の写真)。 一方、爪の黒い線は子供さんには時々みられるものです(右の写真)。これは爪の根元にできるほくろによるもので、この場合は放置しても差し支えなく、成人に近づくと自然に消える場合もあります。 爪の黒い線がメラノーマのはじまりか、良性のほくろによるものかの判断は難しい場合がありますが、大人の人で、中年以降に爪に黒い線が出てきた人は必ず皮膚科を受診して下さい。 爪のメラノーマ 進行した爪のメラノーマ 小児の良性色素線条

足の裏のほくろは危ない?

足の裏のほくろは危ないとよく言われますが本当でしょうか?これは非常にたちの悪い皮膚がんである悪性黒色腫(メラノーマ)が足の裏にできやすいことと関係があります。実際にほくろが悪性のメラノーマになることはありませんが、メラノーマの始まりはほくろとよく似ていますので注意が必要です。 メラノーマのはじまりは普通のほくろとは異なり、①中年以降に出てくる、②形がいびつである、③色に濃淡がある、④直径が7㎜以上ある、という特徴があります。特に④の大きさは重要なポイントです。 最近ではダーモスコピーという拡大鏡による診断がほくろとメラノーマの区別に威力を発揮しています。これで拡大してみると、両者はほぼ区別が出来ます。足の裏のほくろに気づいてもダーモスコピーで一度きちんと診断を受けておけば、慌てて切除する必要はまったくありません。 ほくろ メラノーマ

往診で皮膚癌の治療も

病院への受診が困難な患者さんのために昼休みの時間に往診に出ることが多くなりました。寝たきりや体の不自由なお年寄りには、床ずれ(褥瘡)がよく出来ます。また、慢性の湿疹から皮膚癌まで様々な皮膚病が出ます。写真は私の使っている往診キットで、簡単な検査や外科的処置を行うための道具を揃えてあります。写真左の魔法瓶には液体窒素が入れてあり、冷凍凝固で早期の皮膚癌の治療も行うことができます。

紫外線防御のポイント

寒い日が続いていますが、暦の上ではもうすぐ春です。これから暖かくなるにつれ、畑仕事や庭仕事、スポーツやレジャーなどの屋外活動が増えますが、太陽光に含まれる紫外線は皮膚癌の原因になるだけでなく、シミやシワを引き起こしますので、できるだけ紫外線を防ぎこれらの皮膚障害を予防することが大切です。 紫外線防御のポイントは以下の6つです。 ①紫外線の強い正午前後を避け、戸外活動はできるだけ朝や夕方に行うようにしましょう。 ②戸外活動時には日陰を利用しましょう。 ③日傘をさし、帽子を被りましょう。麦わら帽のようにつばの広い帽子は紫外線の強い時間帯の外出にとても有効です。ただし、日傘や帽子は太陽からの直接の紫外線は防げますが、大気中で散乱している紫外線まで防ぐことはできません。 ④袖が長く襟のついた衣服でできる限りからだを覆いましょう。濃い色で編み目の詰まった布地が最も紫外線を防ぎますが、熱中症にならないように通気性が良く、着心地の良いものを選びましょう。 ⑤白内障の予防にサングラスをかけることも大切です。レンズに紫外線防止効果があり、顔によくフィットするメガネを選びましょう。上下や側方からの散乱光を防ぐために、大きめで顔にフィットするメガネが良いでしょう。 ⑥日焼け止めを上手に使いましょう。日焼け止めは様々なものが市販されていますが、防御効果の強さや落ちにくさを基準として、生活シーンに合わせて適切なものを選ぶ必要があります。日焼け止めの効果はSPF(Sun protection factor)とPA(Protection grade of UV-A)で表示されています。屋外での軽いスポーツやレジャーではSPFが10、PAは++程度のもので充分ですが、炎天下でのレジャーやマリンスポーツではSPFが30以上、PAは+++の日焼け止めを選びましょう。 紫外線に充分注意して暖かな春をエンジョイしましょう。

フォトシルク
フォトシルクの効果

    フォトシルク5回施術後(2010年12月) 美容の患者さんも少しずつ増えて来ました。当院で行っているフォトシルクの美顔効果はとても良好です。 写真はランニングが趣味の50歳代の女性です。紫外線対策は走る時にサンスクリーンをさっと塗る程度。ご本人の同意が得られたので写真を公開します。6月の時点ではシミと小じわが目立ち、皮膚の光老化が顕著です。しかし、フォトシルクを5回施術後は下の写真のように、シミはかなり薄くなり、肌も張りが出て小じわが目立たなくなっています。ご本人も「こんなにキレイになるなんてびっくり。ほうれい線が目立たなくなり、顔全体が明るくなった感じです。」と、とても喜んでおられます。今後もランニングの時は、帽子、サングラスの着用とサンスクリーンの使用を徹底して紫外線対策を厳重に行っていただき、フォトシルクをさらに追加すると、もっと綺麗になると思います。 このように、フォトシルクはシミを薄くするだけでなく、肌を引き締めて艶やかにする効果があります。 施術前(2010年6月) フォトシルク5回施術後(2010年12月)

「とびひ」にも多剤耐性菌が・・

多剤耐性菌による院内感染が話題になっています。皮膚科領域の感染症の多くは黄色ブドウ球菌によるもので、この季節に多い子供の「とびひ」(伝染性膿痂疹)はその代表ですが、この「とびひ」の原因となるブドウ球菌にも多剤耐性菌のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が増えています。最近では「とびひ」の3割程度がMRSAによると言われていますが、私たちの診療所での印象ではもっと多く、約半数はMRSAのようです。したがって、従来「とびひ」に有効であったセフェム系やペニシリン系など標準的な抗菌薬が効きません。ただし、これらのMRSAは今問題となっている院内感染のMRSAと異なり、有効な抗菌薬がまだ沢山ありますので心配はいりません。しかし、このような耐性菌が病院の外でも蔓延しているという事実は何となく不気味です。

消毒の功罪

前回に続いて、もう少し消毒について書きます。 消毒の目的は言うまでもなく、傷に付着した細菌を殺すことです。しかし、実際には細菌に感染した汚い傷というのはそれほど多いものではありません。擦り傷などは流水でよく洗浄するだけで充分です。万一感染があっても、適切な抗菌薬の投与で細菌を殺すことができます。 傷や潰瘍となった皮膚は、それを修復するために様々な細胞成長因子を分泌して皮膚の細胞の増殖を促し、創部を閉じるように働きます。ところが、そこを消毒するとせっかく増えてきた皮膚の細胞を殺してしまうことになるのです。また、局所を乾燥させると、折角分泌された細胞成長因子が働かなくなってしまいます。つまり、傷を早く直すためには、細胞を培養する培養皿のように、栄養分のたっぷり入った液体で創面を満たしておくのが一番よいのです。 しかし、一方で、歴史的には消毒が多くの命を救ってきたことも事実です。19世紀の中頃まで、外科手術を受けた患者の死亡率は恐ろしく高いものでした。それらはすべて傷の化膿によるものでしたが、何と、この時代は化膿が細菌という微生物によってもたらされるという事実が知られていませんでした。1861年スコットランドの外科医、リスターは、当時、フランスのパストゥールらが傷の化膿が微生物によって起こるという学説を唱えたことにヒントを得て、手術後の創部を消毒薬の石炭酸で覆うことによって、術後の死亡を大幅に減らすことに成功しました。リスターは1869年にエジンバラ大学の外科教授になりましたが、今でもエジンバラ大学医学部の玄関には彼の業績を称える記念コーナーがあります。 従って、消毒を好むのはある意味で外科医のDNAであるのかもしれません。しかし、細菌というものが詳しく研究され、それに対するさまざまな抗菌薬が使えるようになった現代では、消毒はもはや過去の遺物になりつつあるのかもしれません。

傷は消毒してはいけない!?

昔は常識であったことが180度変わるということが世の中ではままあります。これは医学の世界も例外ではありません。例えば、現在、スポーツ中に適度な水分補給を行うことは常識ですが、私たちが中高生のころは運動中に水を飲むと「バテる」とされ、部活の練習中にもできるだけ水を飲むなと言われたものです。今では考えられないことですが、ちょうど真夏の今頃、炎天下での練習の休憩時間、水を飲みたいのを我慢して、塩をなめながら熱いお茶を啜っていたことを思い出します。 傷の消毒についても同じことがあります。子供のころ、遊んでひざを擦り剥くと「赤チン」をつけて傷に息を吹きかけたものでした。つまり、傷は消毒してできるだけ乾かして治すということが常識でした。私が医師になりたてのころもこの常識は生きていました。皮膚の手術後は入浴を禁止して、毎日傷を消毒してガーゼを変えていました。また、床ずれの潰瘍にドライヤーで熱風を吹きかけて乾燥させていたこともあります。 しかし現在では、傷の消毒はできるだけ行わず、入浴はむしろ積極的にしてもらい、創傷面は乾かさずに湿潤した環境に保つというのが、傷の治りを早くするための常識なのです。私たちの診療所でも皮膚の手術を行った患者さんは翌日から入浴してもらい、原則として再診は翌日と1週間後の抜糸時のみとしています。また、擦り傷などはドレッシング材を貼るだけで、毎日消毒に通院してもらうことはしていません。

皮膚の老化は予防できるか?

2009年の日本人の平均寿命は女性が86.44歳、男性が79.59歳で、いずれも4年続けて過去最高を更新したことが先日公表されました。これによると2009年に生まれた赤ちゃんが七十五歳まで生きる割合は、男性71・9%、女性86・5%、九十五歳まで生きるのは男性8・2%、女性23・7%と試算されるということです。考えてみればこれは大変な数字です。特に女性は10人中9人近くが少なくとも75歳までは生きることになる訳です。「人間五十年。下天の内をくらぶれば夢幻のごとくなり。一度生を得て滅せぬ者のあるべきか。」幸若舞の謡「敦盛」の一節に謡われているように、寿命が50歳程度であった時代はすでに遠く、これからはそれからさらに25年、35年を生きることを考えねばなりません。 関節などの運動器の寿命は人間の場合、約50年と言われており、「敦盛」の頃の寿命とほぼ一致しています。従って、中高年になって膝の具合が悪くなったり腰が痛くなったりするのは、ある意味仕方のないことかもしれません。老化は避けて通れない宿命です。 皮膚もご存知のように老化します。若かりし頃、瑞々しく張りのあった肌は乾いて皺やシミが年を重ねる毎に増えてきます。しかし、このような皮膚の老化現象の多くは実は紫外線の影響を大きく受けていることが分かっています。これを「光老化」と言います。つまり、皮膚の老化は紫外線防御を徹底して行うことで、かなりの部分予防することが可能なのです。特に子供時代は屋外で過ごす時間が多く、一生で浴びる蓄積紫外線量の約半分は成人前に浴びるとも言われています。紫外線は皮膚の老化だけでなく、皮膚がんも引き起こします。また、眼に対する影響も大きく、白内障の原因としても重要です。したがって、小さい頃から紫外線対策を心がけることがこれからの長寿時代には益々大切になります。紫外線防御の具体的な方法については改めて書きます。