マダニ刺症について

マダニは山間部の森林に生息し、野生動物から吸血して成長します。近年はイノシシやシカなど野生動物が増加して人里にも出没しているのでマダニの生息域も拡大しており、山の中だけではなく、人家の庭や公園などでも人間がマダニに刺されることがあります。当院でも春から夏にかけて毎年5~10人のマダニ刺症の患者さんが受診されます。

パッチテストのすすめ

手やからだに痒い皮疹が出て、皮膚科でお薬をもらって塗っているけれどなかなか良くならないという患者さんが時々いらっしゃいます。これはアレルギー性のかぶれのことが多く、その場合にはパッチテストを行って原因を明らかにする必要があります。

水いぼとプール

「水いぼ(伝染性軟属腫)」はウイルスによる感染症で、小学校低学年までにほとんどの子供がかかります。水いぼには軟属腫ウイルスが大量に含まれているのでこれを掻き壊すと周囲の皮膚にウイルスが感染して広がります。また、肌と肌の接触やタオルの共用などで他の子供にうつることもあります。

薬による光線過敏症

春になり日差しが強くなると、光線過敏症の患者さんを時々診ます。これらの患者さんは、普通であれば日焼けを起こすことのない少量の紫外線で、手や顔面など露出している部位に強い炎症を起こします。

格闘技選手の「たむし」

水虫を起こすカビの一種である白癬菌が足以外の皮膚に感染したものがいわゆる「たむし」です。「たむし」は股にできることが多いのですが、体のどの部位にもできます。「たむし」で来院する人の90%以上は水虫をもっていますので、水虫の白癬菌が自家接種で足以外の皮膚にくっついて発症するものと考えられます。つまり、普通の「たむし」はそれほど感染力の強いものではありません。

メラノーマの新しい治療薬

悪性黒色腫(メラノーマ)は早期に切除すれば治癒しますが、進行して転移が出ると有効な治療がほとんどありませんでした。これまで唯一ある程度の効果が認められていたのはダカルバジンという抗がん剤ですが、それも有効率はわずかに15%程度というものでした。しかし、最近の研究の進歩により、一昨年と昨年、進行したメラノーマに有効なイピリミマブとベムラフェニブという2つの新しいお薬が米国で相次いで認可されました。

シモヤケの季節

数日前から寒さが本格的になり、今年もシモヤケの患者さんが来院し始めました。\r\nシモヤケは最低気温が3~5℃、日内温度差が10℃以上で発生しやすくなりますので、真冬よりもむしろ初冬または初春の季節の変わり目に多くみられます。手足の先や耳など循環障害の起こりやすい部位が赤く腫れ一般に痒みを伴います。症状がひどいと、水ぶくれや潰瘍になることもあります。\r\nシモヤケのできやすい人、できにくい人は確かにあるようで、毎年のようにしもやけに悩まされている人は、好発時期の初冬や初春に早めに手袋を着用する、耳まで覆う帽子を被るなどの予防が大切です。シモヤケができてしまった場合は、マッサージや冷温交替浴を行います。ビタミンEの内服や外用も多少の効果があります。水ぶくれが破れたり潰瘍になったりした場合は、抗生物質の入った軟膏を塗るなどして、ばい菌の感染を防ぎます。シモヤケは暖かな春になれば必ず治ります。暖かくなっても治らない場合は、別の皮膚病や内臓疾患が原因のことがありますので、必ず皮膚科を受診してください。

足の裏のほくろは切らなくて良い

以前に足の裏のほくろとメラノーマ(悪性黒色腫)について書きましたが、もう少し補足しておきます。昔は足の裏のほくろでやや大きいものや形のいびつなものは、メラノーマの可能性を病理検査で否定するために切除するのが一般的でした。しかし、最近はダーモスコピーという新しい診断機器が普及して、肉眼的にほくろとメラノーマの区別がある程度できるようになりましたので、足の裏のほくろを切除することが少なくなりました。ダーモスコピーとは皮膚表面での光の乱反射を防止しながら皮膚の病変を10倍くらいに拡大して観察する機器です。これを使うと足の裏の溝と丘の平行線がきれいに見えます。ほくろではこの溝の部分に黒い色がつきますが(左図)、メラノーマのはじまりでは色素沈着は丘の部分にみられます(右図)。左図のような所見がはっきりしていれば、ほくろに間違いありません。足の裏のほくろがメラノーマに変化することはまずありませんので、放置しても大丈夫です。一方、右図のような所見がはっきりしていれば、メラノーマの可能性が高いので直ちに切除します。ダーモスコピーの所見がどちらのパターンかはっきりしないときは定期的に経過を観察し、7㎜を超えて大きくなるようであれば切除します。

アナフィラキシーショック

先日の夕方、診察時間が終わる頃に、自宅で農作業中に蜂に指を刺された男性が来院しました。受付に来られた時にはすでに血圧が下がっており、目がよく見えないと訴えられていました。自宅から10分くらいの距離を自分で車を運転して来たのですが、途中から目の前が真っ暗になって、辛うじて私たちの診療所にたどり着いたとのことでした。途中で交通事故を起こさなくて幸いでした。直ちに点滴とアドレナリンの投与を行い、無事回復しましたが、アナフィラキシーショックの恐ろしさを実感しました。 蜂毒によるアナフィラキシーは、刺されてから15分以内に起こり、全身の蕁麻疹、呼吸困難、嘔吐、腹痛、下痢やめまいなどの症状が出ます。重症になると血圧低下を伴うショック状態となり、一刻を争う状況になります。実際に我が国では毎年30人程度が蜂毒によるアナフィラキシーにより死亡しているようです。 アナフィラキシーは他に食べ物や薬でも起こることもあります。アナフィラキシーの症状が出たら、とにかく助けを呼び、一刻も早く医療機関に向かうことが大切です。このような時こそためらわずに救急車を利用するべきです。

水虫のOTC薬

そろそろまた水虫の季節がやってきますが、この時期になると写真のような水虫のOTC薬によるかぶれを時々診るようになります。 OTC薬とは、医師の処方箋が無くても薬局で購入できる市販薬のことです(OTCはオーバー・ザ・カウンターの略)。OTC薬は安全性が重視されていますので、その分効果は弱いものが多いのですが、最近は私たち医師が処方する薬と同じ成分が含まれているものもあります。水虫のOTC薬の多くも、水虫の原因である白癬菌に強い抗菌作用を示す薬物が含まれていますので効果は十分あるのですが、時々ひどいかぶれを起こすことがあります。一方、医師が処方する水虫の薬でかぶれを起こすことはあまりありません。これはどうしてでしょうか? 実は、水虫のOTC薬にはメントールなどのかゆみを抑える成分(鎮痒剤)や殺菌剤、消毒薬などが含まれており、これらの成分がアレルギー性のかぶれを引き起こすことがあるのです。鎮痒剤が含まれていれば、塗った時にスッとして一時的に痒みが和らぐかもしれませんが、それで水虫が直ちに治るわけではありません。それよりも薬を根気よく塗って白癬菌の増殖を抑えることが大切で、そうすればいずれ痒みもとれます。なお、水虫は痒いというイメージがありますが、実際には水虫の過半数には痒みはありません。また、白癬菌は殺菌剤や消毒薬では死にませんのでこれも無駄なものです。OTC薬のメーカーは鎮痒剤や殺菌剤を入れることで付加価値をつけて販売を促進したいのでしょうが、むしろこれらがかぶれなどのトラブルの元になる可能性がある訳です。 OTC薬は病院に行かなくても簡単に手に入るので、水虫の治療くらいはこれで十分と思われるかもしれません。しかし、水虫は症状が様々で、私たち皮膚科医にとっても完治させることが難しい厄介な病気なのです。